大会長 藤岡孝志 (日本社会事業大学)
大会のテーマ
『原点回帰』―催眠の実験と臨床を振り返り、「身体」と「支援者支援」へとつなげる―
2022年度学術大会は、東京で開催させていただくこととなりました。日程は、 2022年12月10日(土)から11日(日)までの2日間で、会場は東洋学園大学です。
今年度は、対面での開催を現在準備中です。ただ、コロナ禍の状況によっては、オンライン(あるいは、対面とオンラインの併用)となる可能性もあります。少なくとも、大会期間中に実施する催眠技能研修会は、対面で開催したいと考えています。
今大会のテーマは、『原点回帰』―催眠の実験と臨床を振り返り、「身体」と「支援者支援」へとつなげるーといたしました。
催眠は、多くの臨床技法と臨床的な概念を精選し、構築してきました。多くの先達たちが見てきた催眠現象の実験的解明と臨床的な適用は、時代とともに、大きな変遷を経て、発展してきました。催眠へのこだわりを捨てなかったジャネが、後にPTSDや解離概念の構築に寄与した一方で、催眠から自由連想法へと移行したフロイトもまた数多くの臨床技法と臨床的概念の礎を構築しました。また、催眠現象の実験的臨床的な解明に生涯をささげたミルトン・エリクソンも、催眠にこだわり続けたからこそ、今日のブリーフセラピーやファミリーセラピーの礎になり、その発展に寄与したと言えます。催眠から離れようが、寄り添い続けようが、また、傍から催眠を見続けようが、その魅力は色褪せることはないでしょう。多くの先人たちが見てきた催眠の世界、特に19世紀の催眠隆盛の時代に何が人々を魅了したのか、我々はまた十分にはとらえきれていないと考えます。『原点回帰』とは、同じ人としての営みとして繰り広げられた催眠の世界、その景色をもう一度見ることで、我々が見過ごしてきたこと、あるいは忘れてしまっていたことを再度発掘することができるのではと考えます。
そして、その原点から眺める眼差しを、特に今回は、「身体」と「支援者支援」へと向けていこうと考えています。支援者にとってもクライエントにとっても、最も身近な臨床的な場として、豊穣なる世界を有する「身体」に注目し、その臨床的な可能性について、改めて、原点から問い直します。
さらに、支援者の位置づけこそが臨床場面で重要であることを、「ラポール」という催眠現象を通して抽出したのも、催眠でした。催眠現象における「支援者」を掘り下げ、「支援者支援は、クライエント支援」とのテーマを今一度催眠臨床から問い直していきます。ロジャースは、カウンセリング場面で、自身が催眠状態にあったと晩年語っており、支援者としての健康さや安定感、洞察、内省、メンタライジングなど、催眠を通した支援者支援、セルフ・ケアが臨床の質の保持に寄与することを考えると、支援者支援への催眠技法の適用の領域が今後さらに発展することが期待されます。
本大会では、三年近くにもなるコロナ禍があったからこそ得られた体験と知見を、多くの学会員とともに共有しあい、そこから大いなる知的刺激をえて、日頃の臨床と学問的展開を語り合える有意義な時間となればと切に願っています。